需要と供給から始まり、ミクロ経済学の概要を解説してきましたが、ついに今回で最後となりました。
最後に解説するのは、「ゲーム理論」と呼ばれる概念です。知る人ぞ知る天才数学者ノイマンらによって考案された理論であり、経済学、政治学、心理学など、さまざまな分野での意思決定のモデルとして利用されています。今回話す内容はゲーム理論の基本中の基本ですが、これを理解することで、多くの現実世界の問題や状況に対する洞察を得ることができるでしょう!
ゲーム理論の基礎:同時手番ゲーム
ゲーム理論で扱われるモデルは、プレイヤーが同時に行う同時手番ゲームと、順番に行っていく逐次手番ゲームに分かれます。以下は、同時に行う場合の解説です。
最良反応
最良反応は、あるプレイヤーが、他のプレイヤーの行動を既知としたときに、自らの利益を最大化する反応のことを指します。
囚人ゲーム
ゲーム理論の有名な問題の一つに、2人の囚人がそれぞれ黙秘するか、自白するかを選択するゲームあり、以下のようなルールで考えます。
- 両方が黙秘すれば、少ない刑罰で済む。
- 一方が自白し、他方が黙秘すれば、自白した方は無罪となり、黙秘した方が最も重い刑罰を受ける。
- 両方が自白すると、中程度の刑罰が与えられる。
例えば相手が黙秘するならこちらは自白すれば無罪放免となるため、自白すべき。
相手が自白すると仮定するなら、こちらが黙秘してしまうと罰が重くなるため、自白して中程度の罪を共に受けるべき。
つまり、相手がどんな選択をとるにせよ、こちらにとっての最良反応は自白することだと言えるわけです。
支配戦略
あるプレイヤーの行動が、自分が取れる他の全ての行動よりも、どんな相手の行動に対してもより良い結果をもたらす場合、その行動は支配戦略と呼ばれます。
支配戦略均衡
全てのプレイヤーが支配戦略をとった時の均衡のことを指します。支配戦略均衡では、各プレイヤーは他の選択肢をとることなく、支配戦略をとることが最適とされます。
囚人のゲームで考えると、相手も自分もどんな選択を取ろうと最良反応は自白であるため、これが支配戦略であり、お互いに自白することが支配戦略均衡となります。
しかし、ここで問題があります。利益の最大化だけで考えると、どちらも否認する場合にお互いの利益が最大化されているからです。囚人ゲームにおいて、個々人が戦略的に行動した結果、利益は最大化されないことを「囚人のジレンマ」と言うのです。
支配戦略のないゲーム
「じゃんけん」は、支配戦略のないゲームの一例です。なぜなら、グー、チョキ、パーのどれもが絶対的に他の手を必ず打ち負かすわけではないからです。プレイヤーの選択は他のプレイヤーの選択に依存し、どの手が最も良いかは一定ではありません。
ナッシュ均衡
ナッシュ均衡は、ゲームの各プレイヤーが自分の戦略を変更することなく、自らの最適な戦略を選択している状態を指します。具体的には、各プレイヤーは他のプレイヤーの戦略を固定とした上で、自分の利益を最大化する戦略を選びます。そして、すべてのプレイヤーがこの条件を満たす時、その状態はナッシュ均衡と呼ばれます。囚人ゲームの例では、支配戦略均衡=ナッシュ均衡となっています。
ナッシュ均衡の応用: 共有地の悲劇
共有地の悲劇は、共有資源の過剰利用に関する問題を示す例として知られています。ゲーム理論と絡めることで、深い洞察が得られます。
概要:複数の牧場主が共有地で牛を放牧している状況を考えます
- 皆が過剰に放牧した時:1000p
- 皆が控える時:1500p
- 自分だけがした時:自分2000p、相手500p
- 自分だけしなかった時:自分500p、相手2000p
皆が適度に放牧をした時利益が最大化されるものの、相手が放牧する場合もしない場合も、個々の最良反応は放牧することなので皆が放牧することになり、共有地は過度な放牧によって荒廃し、結果的にすべての牧場主の利益が減少することになります。
ナッシュ均衡の観点から
この状況はナッシュ均衡の一例です。個々の牧場主は、他の牧場主の行動を固定とした上で、自分の利益を最大化する行動(多くの牛を放牧する)を取ります。しかし、すべての牧場主がこの戦略を取ると、全体としては非効率的な結果となることが確認できます。
ゲーム理論の発展:逐次手番ゲーム
後ろ向き帰納法
後ろ向き帰納法は、特に時系列に沿って複数の決定が続くゲーム、「逐次手番ゲーム」で使われる解析方法です。この方法は、最後の行動から逆算して、各段階での最適な行動を特定することを目的としています。
具体的には以下の手順で行われます:
- ゲームの最終的な局面を想像し、その時点での最適戦略を特定する。
- その結果を前提として、一つ前の局面での最適戦略を導き出す。
- これを繰り返して、初めの局面まで逆算する。
この方法を用いると、複雑なゲームでも各プレイヤーの最適な戦略を系統的に特定することが可能になります。
先行者利益とコミットメント
ゲームにおいて先発のプレイヤーの利益が後発よりも多くなる場合、先行者利益があるといいます。
- 例: 市場への新製品の導入や競争相手に対する戦略的な動きなどで、先行者が市場のシェアや競争の優位性を確保できることが多い。
- 理由: 先行者は初期の市場で独占的な地位にあり、後続者の参入まで価格競争に巻き込まれないため
後続者が先行者に対抗する方法が、コミットメントです。これは、将来の行動や選択をある程度固定することで、相手に信号を送り、自身の戦略的位置を強化する行為を指します。
- 重要性: コミットメントにより、相手の予測や反応を制限し、自分の望む結果に導くことが可能になる。
- 例: 企業が大きな投資を行い、その市場への継続的な参入を宣言することで、他の競合企業の参入を抑制する戦略など。
コミットメントの概念から、例えばいじめを回避するには、(実際するにせよしないにせよ)相手からの自分への不利益に対して徹底的に報復をする人間だと思わせることが有効です。
最後に
ミクロ経済学はいかがだったでしょうか?今回で最後にはなりますが、本気で勉強しようと思えば高度な数学も使うことになるため一筋縄ではいかないかもしれませんが、この記事を通して経済学に興味を持った方が経済学の深い世界まで足を踏み入れるきっかけになれば幸いです。
もちろん、これまで解説したミクロ経済学シリーズは完璧な出来だとは全く思っていないので、新たに学んだことや、気付いたことがあればアップデートしていくので、ぜひこのブログをチェックしておいていただけると嬉しいです!
最後に、自分が読んで役に立ったおすすめの書籍を紹介しておこうと思います。
値段的にも内容的にも初学者なら圧倒的にこれ。非経済学部ならこれだけでいいレベル
現在自分がメインで使っている参考書。値段も大きさも張るけど網羅性は最高峰、内容も初学者でも全く問題ない。
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